申請書の「1人当たり給与支給総額の目標値」の欄で、手が止まっていませんか。毎年3.5%のベースアップは厳しい、と感じる経営者は少なくありません。
でも、補助金の賃上げ要件は「毎年同じ幅で基本給を上げる」ことではありません。判定は計画期間の平均で、賞与も含まれます。3年計画の中で、ベースアップと賞与を組み合わせて達成する設計ができるんです。
この記事では、省力化投資補助金(一般型)第8回と、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 第1回の公募要領をもとに、要件の中身、3年計画の組み立て方、賃上げと生産性向上を両立した公的機関の事例を紹介します。制度情報は2026年10月14日に確認しました。
補助金の賃上げ要件は2つだけ
2つの補助金は、賃上げ要件の骨格が同じです。見るのは「1人当たり給与支給総額」と「事業場内最低賃金」の2つです。
補助金の賃上げ要件(出典:中小企業基盤整備機構の各公募要領を基に当社作成)3.5%は、日本銀行の「物価安定の目標」に1.5%を上乗せした水準です。物価の上昇を上回って従業員の手取りを増やしてほしい、という国の考えが込められています。
3.5%は下限で、実際に目指すのは申請時に自社で掲げる目標値です。目標値は後から変えられないため、申請前に3年分の計画で無理のない数字を決めておきます。
もう一つ、審査では申請時の直近決算期から基準年度(補助事業が完了した年度)までの「足下の賃上げ」も見られます。物価上昇率を上回る伸びが目安で、省力化投資補助金のFAQでは2025年の消費者物価指数の上昇率3.2%が参考値として示されています。
1人当たり給与支給総額は「賞与込み」で数える
決算書の人件費とは数え方が違います。公募要領の定義どおりに数えると、使える手段が広がります。
- 含めるもの: 給料、賃金、賞与、各種手当(残業手当、家族手当、住宅手当など)
- 除くもの: 役員報酬、福利厚生費、法定福利費、退職金
- 対象: 基準年度と各事業年度に、全月分の給与を受けた従業員
- パートタイム従業員: 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は正社員の就業時間に換算。省力化投資補助金(一般型)は事務局に確認
対象は1年間ずっと給与を受けた従業員だけです。年度の途中で入社した人や退職した人は、その年度の計算から外れます。そのため、人の入れ替わりがあっても、それだけで1人当たりの給与が下がることはありません。
省力化の設備を入れると、残業が減って残業手当も減ることがあります。減った分は基本給や賞与で従業員に還元する、と計画に入れておけば安心です。
3年計画で、ベースアップと賞与を組み合わせる
計画期間は3〜5年から選べます。当社では事業計画を3年で作成しています。年平均3.5%の3年計画なら、最終年度に基準年度比で約10.87%以上になれば達成で、途中の年が目標の伸びに届かなくても問われません(省力化投資補助金のFAQ)。
3年計画でのベースアップと決算賞与の組み合わせ(出典:中小企業基盤整備機構『よくあるご質問(第5回〜第8回公募)』を基に当社作成。数値は説明用の仮定)代表はYouTubeで、相談の場での組み立て方を紹介しています。ベースアップは物価や採用環境から必要な2〜2.5%程度にとどめ、残りは賞与で調整する。図の例でいえば、ベースアップ年2.5%で3年目に約485万円、届かない約15万円分を最終年度の決算賞与で支給する形です。
最終年度にわずかに届かない見込みのとき、「補助金を返すくらいなら、従業員に還元したほうがいい」と決算賞与を支給される社長もいらっしゃいます。従業員にも喜ばれる、前向きな選択です。毎年の報告で達成状況は確認されるので、ベースアップと賞与の配分は計画の段階で決めておきます。
事業場内最低賃金は、毎年の改定を織り込む
事業場内最低賃金は、事業場で働く人の時給のうち最も低い金額です。比べる相手の地域別最低賃金は毎年改定されます。
厚生労働省の発表では、2026年度の答申の全国加重平均は1,177円で、前年度から56円の引上げです(出典:厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」、2026年9月3日)。地域別最低賃金が1,177円なら、1,207円以上が目安です。毎年の改定幅を、最初から3年の計画に入れておきます。
賃上げの原資は、付加価値の伸びから作る
賃上げを続ける力は、補助金そのものではなく、補助金で導入した設備が生む付加価値から生まれます。補助金の事業計画では、付加価値額を増やす計画も求められます。
付加価値を増やして賃上げの原資を作る流れ(出典:中小企業庁『2026年版 中小企業白書』、中小企業基盤整備機構『公募要領(第8回)』を基に当社作成)代表もYouTubeで、賃上げの目標には「これだけ利益が増えるから、その20%、30%を従業員に還元する」という根拠を、数字で示すことが大切だと話しています。投資の効果と賃上げを一本の計画でつなげるのがポイントです。
賃上げと生産性向上を両立した事例
公的機関が紹介している事例から、投資で付加価値を増やし、賃上げにつなげた会社を見てみます。
管理会計とITで利益率を見える化した運送会社
従業員40名の道路貨物運送業です。得意先別の利益率が分からず、経営の判断ができずにいました。業務管理ソフトとRPA、トラックのGPSを連携させ、得意先別・輸送ルート別の利益率を日次で見えるようにしました。担当者の残業は5分の1に減り、データを根拠にした価格交渉で燃料費の上昇分も転嫁できています。生まれた付加価値を従業員に還元し、2019年頃から毎年3〜4%の賃上げを続けています(出典:中小企業庁『2026年版 中小企業白書』事例2-2-8)。
セルフオーダーで年間約1万時間を減らした宿泊業
従業員462名の宿泊業です。部門別の業務時間をすべて見える化し、浴室清掃の工程改善や、飲食のセルフオーダー、売店のセルフレジなどの省力化投資を進めました。セルフオーダーだけで年間の労働時間を約1万時間減らし、付加価値を労働時間で割った生産性は1年半で21%上がりました。年間約7.5%の賃上げを実現し、離職率も下がる傾向にあります(出典:中小企業庁『2026年版 中小企業白書』事例2-2-12)。
設備導入で早朝勤務をなくした豆腐の製造販売
従業員35名の飲食料品小売業です。豆腐の賞味期限が短く、毎朝5時から作業を始める必要がありました。冷却水槽を導入して賞味期限を3日から7日に延ばし、ラベルのシール貼りも機械化しました。出勤時刻を2〜3時間遅らせることができ、時間当たりの製造・販売数は20%増えています。あわせて事業場内最低賃金を902円から960円に引き上げました(出典:厚生労働省『働き方改革推進支援助成金・業務改善助成金活用のてびき 生産性向上のヒント集』、2024年3月。業務改善助成金の令和4年度の事例)。
検査の自動化で、空いた時間を高付加価値の仕事へ
省力化投資補助金(一般型)の活用事例集からも1件紹介します。従業員48名の機械部品製造業では、手作業の測定で1日40時間の検査工数がかかっていました。CNC三次元測定機と成績書の自動作成ソフトを導入し、検査工数は1日7.5時間に、作業者は5名から2名になりました。削減した工数は高付加価値の工程や若手の育成に振り向けています(出典:中小企業基盤整備機構『中小企業省力化投資補助事業 一般型活用事例集』、2026年5月21日)。
どの事例も、省力化で空いた時間を付加価値の高い仕事に回し、その成果を賃金で還元しています。補助金の賃上げ要件は、この流れを計画に書き込むものだと考えると、目標値も決めやすくなります。
上限を上げる賃上げ特例は、還元に積極的な会社に
補助上限を引き上げる特例は、1人当たり給与支給総額の年平均6.0%以上と、事業場内最低賃金+50円以上が条件です。
代表がYouTubeで紹介した支援先の社長は、特例の話を聞いて「どうせ利益が出れば税金を払うのだから、従業員に還元すればいい」と前向きでした。もともと利益を従業員に大きく還元する方針の会社なら、上限が上がる分、大きな投資に挑戦できます。ただし特例は、届かなければ上乗せ分を返す仕組みです。還元方針がまだ固まっていなければ、基本の3.5%で無理なく計画するのがおすすめです。
達成できなかったときの扱いも、知っておけば安心
万一届かなかった場合も、補助金の全額を返すわけではありません。1人当たり給与支給総額は、自社の目標値に対する達成度合いに応じた返還です(成長率が0%以下の場合は全額)。事業場内最低賃金は、未達の年ごとに「交付額÷計画年数」の返還になります。付加価値額が増えず、営業赤字の年が多かった場合などは、返還を求めない規定もあります。目標値を背伸びせず、3年の損益計画で払える水準に置き、最終年度に賞与で調整する余地を残しておけば、心配は小さくなります。
まとめ
- 補助金の賃上げ要件は、1人当たり給与支給総額の年平均3.5%以上と、事業場内最低賃金の地域別最低賃金+30円以上の2つ
- 1人当たり給与支給総額には賞与も含まれ、対象は全月分の給与を受けた従業員なので、人の入れ替わりで1人当たりの金額は下がらない
- 当社は事業計画を3年で作成。ベースアップと賞与を組み合わせ、最終年度は決算賞与で還元する設計もできる
- 賃上げの原資は、省力化投資で生まれる付加価値の伸びから作る。公的機関の事例でも、投資と賃上げの両立が進んでいる
株式会社ウェルティイノベーションでは、公認会計士・税理士・行政書士の代表が、1人当たり給与支給総額の算定から、ベースアップと賞与を組み合わせた3年の賃上げ計画、付加価値の伸びを示す損益計画、後払いを前提にした資金繰りまで、一体でご相談をお受けしています。補助金の採択支援額は累計13億円超です。着手金は無料の完全成功報酬で、事業計画づくりから採択後の手続き、補助金の入金までを伴走します。投資の内容と金額、従業員数と給与の状況、実施時期をお知らせください。
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