「AIツールをいくつか入れてみたが、社内で使いこなすところまで届いていない」。当社代表の井下(公認会計士)がYouTubeで紹介した相談にも、こうした社長の声がありました。次は外部の力を借りようと考えたとき、AI導入支援の選び方で迷う方は多いはずです。
成果を出している会社には共通点があります。専門家に「何を頼み、終わったときに社内に何を残すか」を先に決め、自社の担当者も一緒に手を動かしていることです。
本記事では、外部の専門家と組んで成果を出した中小企業の公的な事例をもとに、支援の形態、契約前に決める7つのこと、費用の比べ方を整理します。AI導入全体の進め方は中小企業のAI導入の進め方をご覧ください。
AI導入支援の選び方は「一緒に進めて、社内に残す」が軸
中小機構の調査では、「適切なベンダーや製品を選定する情報が十分にある」に当てはまらないと答えた企業が79.8%でした。公的な支援として「専門家の派遣や導入相談」を求める企業も59.8%あります(出典:中小企業基盤整備機構『中小企業のAI等の利活用に係る実態調査』(2026年3月))。専門家の力を借りたい会社は多く、選ぶ材料が求められています。
代表はYouTubeで、外部の専門家と社内が一緒に進める形を勧めています。任せきりにするとノウハウは支援会社の側に残り、社内だけで進めると遠回りになりやすいからです。代表自身も、自社でAIを使った開発を進めながら、専門家にコンサルや顧問としてついてもらっていると話しています。
専門家と組んで成果を出した3つの事例
外部の専門家と組んで成果を出した中小企業の事例(出典:総務省『令和8年版 情報通信白書』、中小企業基盤整備機構『ハンズオン支援事例集2025』、経済産業省『中小企業におけるAI導入の活用・促進』を基に当社作成)住宅・介護など10事業部の中小企業:年間2,247時間を削減
奈良県などで注文住宅、リフォーム、介護、保育などを手がける中小企業の事例です。AIツールは入れていたものの個人の利用にとどまり、業務全体にどう広げるかが課題でした。
そこで専門の支援業者と連携し、まず全社員向けの勉強会でAIに触れる機会をつくりました。続いて各事業部から計21名が参加する1年間のプロジェクトを実施。事業部ごとに課題と目標を決め、週1回1時間ほどの勉強会で専門家の助言を受け、3か月・6か月・12か月の節目で成果を共有しました。
結果は、全10事業部の合計で年間2,247時間の業務時間削減です。問い合わせ対応のテンプレート化と自動化で年間897時間、介護事業の送迎ルートの最適化などで年間170時間といった成果が含まれます。専門家の支援が特に役立ったのは、「その課題はAIで解決すべきか」という課題設定と、始動後の個別の相談だったといいます(出典:総務省『令和8年版 情報通信白書』第Ⅰ部第2章第1節(2026年7月))。
従業員143名の卸売業:生成AIを使って新市場の販売目標を達成
愛媛県でホテル向けアメニティ商品を企画・製造・販売する卸売業の事例です。主要顧客であるホテル・旅館業界の苦境で売上が大きく落ち、一般消費者向けの新商品(フェイスマスク)の販売に挑戦していました。
中小機構のハンズオン支援(専門家の派遣)を2期にわたって活用しました。生成AIの使い方の講義を受けたうえで、生成AIを使った市場分析や販売戦略づくり、販売データの分析と改善を、専門家と一緒に進めています。
成果として、クラウドファンディングの目標額とフェイスマスクの販売目標を達成しました。社員は生成AIでの作業の効率化や文章作成を身につけ、ほかの業務にも広げています。実績レポートや企画書、ガイドも社内に残りました(出典:中小企業基盤整備機構『ハンズオン支援事例集2025』)。
スーパー・製造業:2か月の協働で需要予測や見積を改善
経済産業省は2020年度、育成したAI人材のチームと中小企業6社が約2か月協働する事業を行いました。スーパーマーケットでは、店舗ごとに人の手で行っていた食料品の需要予測をAIで行い、対象7品目で約380万円(粗利益の改善約260万円、発注業務630時間の削減)の効果を見込んでいます。
自動車部品の製造業では、受注予測の誤差率が大きいもので52%から24%に改善しました。樹脂加工業では、図面からの見積を自動化し、回答時間を1時間から20分程度に短くできる見込みです。
成果の背景として、経産省は、AIで分析できるデータがそろっていたことと、企業側が協働に十分に関与したことを挙げています。参加企業からは、担当者にノウハウがたまり、次のテーマも進め方を描けるようになったという声が出ています(出典:経済産業省『中小企業におけるAI導入の活用・促進』(2021年8月、岩手県ウェブサイト掲載))。
3つの事例に共通するのは、課題と目標を自社で決め、社内の担当者が専門家と一緒に手を動かし、ノウハウを社内に残していることです。
支援の5つの形態と、向いている会社
AI導入支援の5つの形態と向いている会社(出典:当社作成)「AI導入支援」と呼ばれるサービスには、中身の違うものが含まれます。AIの専門家を名乗るのに資格は要らないため、代表もYouTubeで、提供者の経歴と実績を確かめるよう勧めています。
受託開発なら完成後の保守と改修の窓口を、研修なら受講後に業務へ組み込むところまで含むかを確かめておくと安心です。
AI顧問と伴走支援の違い
AI顧問は、月額で相談に乗ってもらう形が中心です。社内に推進役がいる会社なら、判断の相談相手として力を発揮します。推進役がまだいない会社は、作業まで一緒に進める伴走支援から始めるとスムーズです。最初の事例も、1年間の伴走型のプロジェクトを経て、相談できる関係を続けています。
なお、総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版)では、支援を受ける中小企業の多くは「AI利用者」に当たり、出力の最終判断は自社が持つ前提です。
契約前に決めておく7つのこと
契約前に決めておく7つのこと(出典:経済産業省『AIの利用・開発に関する契約チェックリスト』『AI・データの利用に関する契約ガイドライン』を基に当社作成)支援会社を比べる前に、この7つを自社の言葉で書き出しておきます。そろえておけば、各社の提案を同じ物差しで比べられます。
1. 目的とKPI
経済産業省のAI・データの利用に関する契約ガイドラインも、解決したい課題と、達成をどう測るかを先に決めることを重視しています。KPIは、見積書1件の作成時間など、導入前から測れる数字にします。たとえば「見積書1件60分を20分にする」(説明用の仮定)のように書きます。
代表が強調しているのは、浮いた時間を何に使うかまで決めることです。効果を金額に直す方法はAI導入の費用対効果を財務で見るで解説しています。
2. 成果物と検収の基準
報告書、業務の手順書、指示文(プロンプト)の一覧、設定済みのツール環境、研修資料など、受け取るものを書き出します。いつまでに、どの状態で受け取れば完了かも決めます。資料の権利と自社が使える範囲も確認しておきます。見積書の「一式」を品目ごとに分けてもらうだけで、認識がそろいやすくなります。
3. 内製に残す範囲
日々の運用、指示文の手直し、効果の測定、次に広げる業務の判断。これらは社内に残したい仕事です。高度な開発やセキュリティの設計は、外部に任せ続ける判断もあり得ます。
成果が出た会社に共通する、専門家との進め方(出典:総務省『令和8年版 情報通信白書』の事例などを基に当社作成)出発点は業務の聞き取りです。代表がセミナーの参加者約600人に尋ねたところ、業務マニュアルを作れている会社は1割ちょっとでした。例外的な対応まで言葉にする作業を専門家と一緒に進めると、そのまま社内の手順書になります。研修と専門家の使い分けはAI研修で内製化か、専門家と協働かで整理しています。
4. データ・機密情報の扱い
経済産業省のAIの利用・開発に関する契約チェックリスト(2025年2月)は、渡すデータと受け取る出力について、範囲、使い方、第三者への提供、権利の帰属を確認するよう整理しています。最低限、次の点を書面で確かめます。
- 渡すデータと、渡さないデータ
- 入力した内容がAIの学習に使われるか
- 保存場所と期間、終了時の返却・消去の方法
- 再委託先や海外のサービスへ渡るか
個人データを扱うなら、個人情報保護委員会の注意喚起(2023年6月)も確認します。最初の事例の会社も、個人情報を入力しない、学習に使わせない設定を必ず行う、といった最低限のルールを周知したうえで活用を広げています。
5. 責任分担
AI事業者ガイドラインは、関係者の責任の所在を契約などで明確にすることを求めています。出力を最終確認する社内の責任者と、困ったときの連絡先を決め、確認する人の時間も先に確保しておくと運用が滞りません。
6. 契約形態(請負か準委任か)
AI導入支援の契約は、請負か準委任、またはその組み合わせが多くなります。請負は仕事の完成を、準委任は作業の遂行を約束する契約です。前述の契約ガイドラインは、どちらの形かよりも、目的、成果物の評価方法、報酬の基準を契約に書くことが大事だと整理しています。準委任でも報告と成果物の形を書いておけば安心です。個別の契約書は弁護士に確認してください。
7. 終わり方と引き継ぎ
始める前に、終わり方も決めておきます。
- 最低契約期間、自動更新の有無、中途解約の条件
- ツールのアカウントを自社名義で契約するか
- 終了時に引き渡すもの(手順書、指示文、設定内容、データ)
- 終了後も相談できる形(月1回の勉強会、必要なときの相談など)
最初の事例の会社は、プロジェクト終了後も月1回の勉強会を続け、困ったときは支援業者に相談できる関係を保っています。さらに各部門からAI活用の専任スタッフを選び、社内で回す体制へ進んでいます。目指したい「終わり方」の一つです。
AI導入支援の費用は、金額より構造で比べる
支援会社が出している費用の目安は、含まれる作業の範囲がそろっていません。公的な統計もないため、本記事では相場の金額は示さず、費用の構造で比べる方法を紹介します。
| 費用の種類 | 中身の例 | 比べるときの確認点 |
|---|
| 初期費用 | 現状調査、対象業務の選定、設計、環境構築、開発 | 成果物と検収の基準が書かれているか |
| 月額費用 | ツール利用料、伴走・顧問料、保守 | 含まれる作業と頻度、最低契約期間 |
| 成果連動 | 削減時間や売上の増加に応じた報酬 | 成果の定義、測る人と方法、上限額 |
| 社内の費用 | 担当者の時間、データの整理、研修中の業務 | 見積書には出ないため、自社で見積もる |
仮の数字で比べてみます(説明用の仮定です)。A社は初期60万円・月額5万円で、ツールの設定と操作説明まで。B社は初期0円・月額15万円で、月2回の伴走と手順書づくりを含みます。12か月の総額はA社が120万円、B社が180万円です。A社では運用の手直しや効果測定を社内で担うため、その担当者の時間も加えて比べます。
相談の場で使える質問と、頼れる支援会社の答え方
- 当社の業務で、AIを入れないほうがよいものはどれですか
- 効果は、どの数字を、いつ、誰が測りますか
- 提案の削減率は、当社のどの作業が何時間減る計算ですか
- 最初の1か月から、どう進めるかを順に説明してください
- 入力したデータはどこに保存され、学習に使われますか
- 当社の担当者は誰で、途中で交代することはありますか
- 契約が終わったとき、当社の手元に何が残りますか
頼れる支援会社は、1つ目に具体的に答えられます。最初の事例で専門家が力を発揮したのも、この課題設定の場面でした。
3つ目は、代表がYouTubeで特に勧めている確認です。他社で「業務時間50%削減」が出ていても、自社の業務に当てはめた計算を示してもらえれば、納得して進められます。答えを提案書や見積書、契約書の形でそろえてくれる会社なら、安心して任せられます。
デジタル化・AI導入補助金を上手に使う
支援会社やツールが決まったら、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の活用を検討しましょう(2026年10月13日、公募要領(通常枠)で確認)。
- 事務局に登録されたIT導入支援事業者と共同で申請する
- 対象は登録されたITツール(AIを含む)。導入・活用のコンサルなどの役務も、ソフトウェアとの組み合わせで対象になり得る
- 通常枠の補助額は5万円以上450万円以下。クラウド利用料は最大2年分が対象
2026年6月の公募からは、IT導入支援事業者とは別の第三者の専門家と経営者がオンラインで面談し、導入予定のツールや運用体制に助言を受けると加点される「デジタル化セカンドオピニオン」も始まりました。通常枠が対象で、交付申請の時点までに面談を終えておく必要があります(出典:中小企業庁 ミラサポplus(2026年7月更新))。
順番は、業務と目的を決め、支援の形態を選び、そのあとで補助金を組み合わせる、です。補助金は正規の見積額で計画し、自己負担を戻す販売方法(キャッシュバックなど)は認められていない点を押さえておけば安心です。第7次公募回からは1人当たり給与支給総額の向上が申請要件に加わるなど、要件は公募回ごとに変わります(事務局のお知らせ(2026年10月9日))。申請前に事務局のサイトで最新情報を確認してください。
まとめ
- AI導入支援の選び方は、何を頼み、終了時に社内に何を残すかから決める
- 成果が出た事例では、課題と目標を自社で決め、社内の担当者が専門家と一緒に手を動かしている
- 5つの形態は中身が違う。呼び名ではなく、見積書と契約書の作業範囲で比べる
- 契約前に、目的とKPI、成果物、内製の範囲、データ、責任、契約形態、終わり方の7つを決める
- 補助金は中身を決めた後に組み合わせる。第三者の専門家に計画を見てもらう仕組みも活用できる
株式会社ウェルティイノベーションでは、公認会計士が、AIを入れる業務の選定、効果の測り方と費用対効果の検証から、AIの専門家と連携した実装、社内での定着までを伴走しています。支援会社を選ぶ前の「何を頼むか」を整理する段階からご相談いただけます。改善したい業務と、いまの作業時間をお知らせください。
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