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中小企業のAI研修は内製化か専門家と協働か|公的事例に学ぶ成果の出し方

社員にもAIを使ってほしい。でも、何から教えればよいのか。研修を受けさせれば、現場で使ってくれるのか。中小企業のAI研修を考える経営者の多くが、ここで迷っています。

研修で身につくのは、生成AIの基本の使い方と、入力してよい情報の線引きです。これに、どの業務で使うか、誰が出力を確かめるか、効果をどう測るかを組み合わせると、研修が成果につながります。公的機関が紹介する中小企業の事例でも、研修と業務の設計をセットにした会社が成果を出しています。

本記事では、公的な事例を紹介しながら、内製中心・専門家との協働・外部主導の選び方と、研修を運用につなげる手順、助成金の使い方を整理します。AI導入の全体の流れは中小企業のAI導入の進め方をご覧ください。

AI研修で身につくこと、研修と一緒に設計すること

研修で全員の基礎をそろえることには、大きな意味があります。そのうえで、次の図の右側を研修と並行して決めておきます。業務の手順も、扱うデータも、使っているシステムも会社ごとに違うため、ここは自社に合わせて設計する部分です。

AI研修で身につくことと、業務設計・セキュリティ・システム連携・効果測定など研修と一緒に設計することの比較
AI研修で身につくことと、研修と一緒に設計すること(出典:当社作成)

右側の進め方は大きく3つあります。社内で進める内製、専門家と組む協働、開発を外部に任せる外部主導です。まずは公的機関が紹介している事例で、具体的な姿を見てみます。

公的機関の事例に見る、研修と協働の進め方

社内勉強会で全員が作り手に(従業員150名の建設業)

この会社は、長時間労働や見て覚える技能伝承が続き、若手社員が定着しないことに悩んでいました。2019年にデジタル化に取り組むと決め、営業部署の社員を担当に指名しました。

担当者は、プログラミングなしで業務アプリを作れるツールの使い方を、社内勉強会で社員に教えました。勉強会の最後に理解度テストを行い、最下位の人が次回の講師役を務めるルールです。全員が毎月1つ以上のアプリを作ることも目標にしました。

作られたアプリは3,000を超え、新卒社員の3年後の定着率は83.3%に改善しました。今後は生成AIも使い、現場の仕事と情報をつなぐ計画です(出典:中小企業基盤整備機構『J-Net21 全員DXで生産性を向上』2026年2月)。

専門家の伴走で生成AIを販売戦略に(従業員143名の卸売業)

ホテル向けアメニティを扱うこの会社は、主な取引先の宿泊業が苦しくなり、売上が大きく落ち込みました。新商品の美容フェイスマスクで一般消費者向けの販売に挑戦するため、2023年9月から2期(各20日間)、中小機構のハンズオン支援で専門家の派遣を受けました。

専門家は生成AIの使い方を社員にレクチャーし、生成AIを使った市場の分析や、狙う顧客層を決める戦略づくりを一緒に進めました。その結果、フェイスマスクの販売目標やSNSのフォロワー数の目標を達成し、クラウドファンディングでも目標額を達成しています。社員は生成AIを作業の効率化やアイデア出し、文章作成にも使い、ほかの業務に広げています(出典:中小企業基盤整備機構『ハンズオン支援事例集2025』)。

担当者が学び、専門家が設計を支える(従業員80名の金属製品製造業)

多くの品種を個別に管理していたため、生産の情報が紙の日報などに散らばり、仕事が人に付いていました。社内にIT推進室を立ち上げ、2023年7月から2024年4月まで(20日間)、中小機構の専門家の支援を受けました。

後継者の室長と製造部の中堅社員でチームを作り、まず会社の「あるべき姿」を共有しました。次に紙の生産日報をデジタル化すると決め、開発の担当者2人がノーコードツールの作り方を学んで試作し、現場で試しては直すことを繰り返しました。データの設計でつまずいたときは、専門家が設計図づくりを支えています。

生産日報のアプリを導入でき、自社で開発して現場の声で改良する体制と、開発のノウハウが社内に残りました。次は品質管理のアプリなどに広げる予定です(出典:中小企業基盤整備機構『ハンズオン支援事例集2024』)。

内製中心・協働・外部主導の選び方

3つの事例は、進め方が少しずつ違います。どれが自社に合うかは、「社内に推進役がいて時間を割けるか」と「対象業務がどれだけ複雑か」の2つで考えると整理しやすくなります。

社内の推進人材と時間を縦軸、対象業務の複雑さを横軸にした2×2の図。内製中心、協働、外部主導の位置づけ
社内の推進人材と対象業務の複雑さで見る、内製中心・協働・外部主導の選び方(出典:当社作成)

中小機構の調査では、AIやITの導入を推進する専任の担当者がいる企業は3.0%でした。求める公的支援では「従業員向けの教育・研修」が67.7%、「専門家の派遣や導入相談」が59.8%です(出典:中小企業基盤整備機構『中小企業のAI等の利活用に係る実態調査』2026年3月)。研修と専門家の支援を組み合わせたい、という会社が多いことが分かります。

  • 内製中心が合う会社: 業務をよく知り、AIにも慣れた担当者がいる会社です。文章の下書きや資料の要約など、汎用ツールで完結する業務から始められます。150名の建設業のように、社員同士で教え合う仕組みを作ると広がりが早くなります。
  • 協働が合う会社: 業務を知る担当者はいても、AIの経験や時間が足りない会社です。社内は課題と最終判断を持ち、専門家は業務設計や効果測定の仕組みづくりを担います。80名の製造業のように、担当者が学びながら作り、専門家が設計を支える形です。
  • 外部主導が合う場面: 画像による検査や需要予測など、専用の開発が要る場合です。それでも対象業務の選定や受け入れの判断は社内が担い、窓口の担当者を打ち合わせに同席させます。

研修から運用へつなげる3つの原則

研修は、運用の始まりに置きます。対象業務を決めるところから、社内で回すところまでの流れは次のとおりです。

対象業務を決める、基礎研修、実務研修、試して測る、社内で運用の5段階の流れ
AI研修から社内での運用までの流れ(出典:当社作成)

1. 全社員の基礎と、推進担当の実務研修を分ける

全社員には、使い方と入力ルールを短く教えます。推進担当には、自分の業務を置き換える実務研修を行います。推進担当は、ITに詳しい人より、業務をよく知り、やり方を変えることに前向きな人を各部署から1〜2人選びます。80名の製造業でも、開発を担ったのは製造部の中堅社員でした。

2. 自社の業務を題材にする

見積書の下書き、日報のまとめ、問い合わせへの回答案など、実際に時間がかかっている業務を題材にします。代表はYouTubeで、受注生産の個別見積もAIで60〜70点の案までは作れるので、残りを社長が直せばよいと解説しています。研修の場で業務を1つでも置き換えられると、社員が「ほかの業務もできそうだ」と考えるようになり、意欲が高まるとも話しています。

題材にするには、業務の手順が言葉になっていると進めやすくなります。代表が約600人が参加したセミナーで尋ねたところ、業務マニュアルを作れている会社は1割ほどでした。研修の準備を、手順を書き出すよい機会にしましょう。

3. 評価のしかたまで決めてから始める

研修を成果につなげるために、研修の前に次の点を決めておきます。

  • 研修後に、誰が、どの業務で使い始めるか
  • 導入前の作業時間や件数を、誰がいつ記録するか
  • 出力を確かめて最終判断する人は誰か
  • 見直す日(研修の1か月後、3か月後など)
  • 生まれた時間を何に使い、成果をどう評価するか

代表は、AIの利用回数ではなく、生まれた時間で取り組んだ仕事への貢献を評価する仕組みをセットにするよう勧めています。社員が安心して、前向きにAIを使えるようになるからです。

専門家と協働するときの役割分担

協働は、次の4段階で進めると役割が分かりやすくなります。

  1. 社内が、良くしたい業務と数字(時間、件数、ミス、納期)を決め、推進担当を指名する
  2. 専門家が、手順の見直し、サービスの選定と設定、入力ルール、効果の測り方を一緒に設計する
  3. 推進担当が実際の業務で試し、専門家が手直しと検証の方法を教える。判断の基準は手順書に残す
  4. 日々の運用と次の業務への展開は社内が担い、専門家は定期的な見直しに関わる
項目社内専門家
対象業務と目標決める候補の整理と効果の見込み
業務の手順現場の実情を出し、最終判断手順の見直し、AIを使う箇所の提案
社内ルールとセキュリティ承認し、社内に周知ルール案と設定方針の作成
効果測定数字を記録し、続けるか判断測る項目と判定方法の設計
研修受講し、社内に展開実務研修の設計と社内講師への引き継ぎ

契約の前に、支援が終わる時点で社内に残すもの(手順書、ルール、測定の仕組み、教えられる担当者)を決めておくと、80名の製造業のようにノウハウが社内に残ります。支援者の選び方はAI導入支援会社・AI顧問の選び方で解説しています。

人材開発支援助成金はこう使える

社員のAI研修には、厚生労働省の人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)を使えます。同省のパンフレットのQ&Aでも、AI研修の費用は助成の対象と示されています。中小企業は研修費の75%と、研修中の賃金として1人1時間1,000円が助成されます。令和8年度末までの措置です(2026年10月14日に、同省の詳細版パンフレット令和8年8月3日版で確認)。

人材開発支援助成金でAI研修を行う4つの手順と、経費助成75%・賃金助成1時間1,000円・経費限度額30万円
人材開発支援助成金でAI研修を行う流れ(出典:厚生労働省『人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)』を基に当社作成)

同省の活用事例集には、中小企業がデジタル人材を育てた例が載っています(いずれも令和8年8月の改正前の事例です)。

  • 従業員18名の機械器具小売業: 社内のデジタル化と、業務を自動化するアプリ開発の新事業を進めるため、外部のITの専門家を講師に招いて社内で研修を行いました(1.5時間×8回、3名)。ノーコードでのアプリ開発などを学び、新事業の中心となる人材が育っています。研修費293,220円に対し、助成は255,900円でした。
  • 従業員129名の総合工事業: 現場技術者の書類作成の負担を減らすため、4名が建設事務に必要なITの講座(24時間)を受講しました。現場の書類を事務担当が作れるようになり、業務の効率化と長時間労働の是正につながりました。研修費132万円に対し、助成は108万6,000円でした。

使うときは、受講する社員の担当業務に直結する内容にすること、AIツールの導入費用は研修費と分けて考えること、計画届を研修開始の1か月前までに出すことの3点を押さえておけば安心です。対象になるかどうかは、計画届の前に管轄の労働局へ相談すると確実です。

まとめ

  • AI研修は、業務設計・セキュリティ・システム連携・効果測定と一緒に設計すると成果につながる
  • 公的な事例では、社内勉強会での教え合い、専門家の伴走による生成AIの活用、担当者が学び専門家が設計を支える形で成果が出ている
  • 推進人材と業務の複雑さで、内製中心・協働・外部主導を選ぶ
  • 研修は基礎と実務に分け、自社の業務を題材にし、評価のしかたまで決めてから始める
  • 人材開発支援助成金を使えば、中小企業は研修費の75%と賃金の一部の助成を受けられる

株式会社ウェルティイノベーションでは、公認会計士が、AIで改善する業務の選定、業務手順と社内ルールの設計、費用を含めた効果測定の仕組みづくり、社内の担当者への引き継ぎまでを一緒に進めるご相談をお受けしています。研修の成果を業務に広げたい、どこまで社内で担えるか整理したい、という段階でもお気軽にご相談ください。

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